尖圭コンジローマ治療方法のいろいろ
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尖圭コンジローマ治療方法のいろいろ
この記事は著者が担当した2011年日本性感染症学会関東甲信越支部総会ならびに皮膚科フォーラムにおける学術講演「尖圭コンジローマ治療の今昔」の内容から抜粋して一般の方向けにわかりやすく書き直したものです。
医療機関様で日常診療にお役立ていただけると幸いです。なお、著者の許可なく書籍、インターネット、論文ほかに記事や画像の一部または全部を転載、引用、公開を禁止いたします。
尖圭コンジローマの治療は、大別していぼを取り除いたり焼いたりする外科的方法と、ウィルスに対する免疫力を高める免疫賦活療法に分かれます。どちらにも一長一短があるので尖圭コンジローマのタイプや、患者様のご要望によって治療方法を選択いたします。前章で述べたように一口に尖圭コンジローマといっても様々なタイプがあるので、いろいろな治療方法の組み合わせで最良の結果を得るように、努力しています。
著者が治療方法の選択に当たって最も重視しているのはウィルスの分布の広さです。病態に合わせて最良の治療方法をご紹介していますが、患者様のご要望やライフスタイルも考慮してご相談して治療方法を選んでいます。なお、当サイトに掲載された以外にも治療方法はありますが、著者の経験と健康保険の適応の範囲内で自信を持ってお勧めできる治療方法しかご紹介していません。
ベセルナクリームによる免疫賦活療法
2007年12月から日本でもベセルナクリームが認可され臨床に使えるようになりました。米国の3Mが開発し、世界的に実績のある薬です。海外では尖圭コンジローマのほかに皮膚がんや日光角化症のような前がん状態にも使用されていて、非常に高い評価を受けています。日本では持田製薬株式会社が販売をしています。当院ではベセルナクリーム発売前から持田製薬のアドバイザーとして一般向け情報提供サイト「イボイボコミュニケーションスタジオ」の監修などを手掛け、また発売後の有効性調査にも協力してベセルナクリームの育薬に努めてまいりました。
図 ベセルナクリームの作用機序
ベセルナクリームの作用機序:ベセルナクリームは尖圭コンジローマの表面に塗ることで、有効成分のイミキモドが皮膚内を遊走している免疫応答細胞(マクロファージ)のトールライクレセプター7(TLR7)に接合して免疫の扉を開きます。マクロファージがインターフェロンαやインターロイキン12といった内因性液性免疫(ケモメディエイター)を誘発し、インターロイキンによってさらにナチュラルキラー(NK)細胞やキラーT細胞といった細胞性免疫が誘発されてウイルス感染細胞を攻撃します。
以上、専門用語が多くてすみません。要するにクリームを塗った場所にウイルスに対する免疫ができて、ウイルスが消滅するのでイボがなくなるのです。
今まではイボそのものを破壊する治療しかなかったので、ウイルスが残って再発してしまう、何度も何度も手術を受けたり液体窒素で焼かれたりしてきました。ベセルナクリームはウイルス免疫を高めて結果的に尖圭コンジローマが消える治療方法なので、今までの治療方法とは根本的に考え方が異なります。それなのですぐに結果が出る薬ではありません。イボが消えてもウイルスが残っていることがあるので平均的には8週間以上塗り続ける必要があります。
ベセルナクリームはこのように非常に優れた薬ですが、しかし万能ではありません。副作用をなるべく起こさないで速やかに効果的な治療をするには、ウイルスの治療薬であることを念頭に置かれて、主治医の指導に従ってください。
ベセルナクリームの患者マネジメント(専門医向け)はこちらから
尖圭コンジローマに対する免疫賦活療法の普及目的で主に皮膚科、泌尿器科、産婦人科の専門医の日常のご診療に役立つように書きましたが、現在ベセルナクリームでの治療を受けていらっしゃる患者様にもお読みいただきたい記事です。
冷凍凝固法実施のコツ
尖圭コンジローマに限らずイボの治療によく液体窒素による冷凍凝固が使われます。周辺部分も含めた腫瘍組織をマイナス196度の液体窒素で冷たいやけど (凍傷)にして殺そうというのです。この方法の利点は広い範囲にできること、終わった後の出血がほとんどないこと、繰り返し行えることですが、逆に数日間 痛みが残ること、治療効果が不確実のことがあることです。
図 液体窒素の冷凍凝固処置
早期であれば非常に有効で、著者も好んで使う方法です。この方法のコツは、強めに、広範囲に処置することです。中途半端だと周辺にウィルスを撒き散らす(播種)こともあってかえって病状を悪化させてしまう結果になりかねません。
冷凍凝固法に限らず一つの治療法が不十分なら他の治療法を試してみるべきです。冷凍凝固である程度腫瘍が小さくなったら早めに手術で切除することも考えなくてはいけません。
レーザー・電気メスの注意点
炭酸ガスレーザーや高周波電流によるメスでイボを焼勺する方法は、傷が小さくて痕も残りづらい、スマートな方法です。痛みは手術を始めるときに使う麻酔 の注射だけで、手術のあとも痛みはあまりひどくありません。治療効果もすぐにイボが消えます。しかし、この方法も腫瘍の表面だけを焼杓してもすぐに再発してしま いますから、十分に深く広範囲に焼勺する必要があります。
図 レーザー治療の原則1
特にレーザーエネルギーを直接尖圭コンジローマに照射すると、いぼ周辺にウイルスが拡散してしまい、周辺にドーナツ型の再発をすることがよくありますから、著者はレーザーを単独で使うことはほとんどありません。通常は鉗子や電気メスで大まかにイボ本体を取り除いて、さらにイボ周辺や切除した部分の基底層にウイルスが残っていそうな場合にレーザー照射を追加します。とくに尿道口の病変や亀頭部の病変では皮膚粘膜が薄くて出血しやすいために深く切除することが出来ないことが多いので、慎重にレーザー照射を追加することが多いです。つまり、レーザー照射は手術の主役ではなく、再発予防のための補助的手段です。
図 レーザー治療の原則2
やむなくレーザーだけで手術しなくてはならない場合は、まず尖圭コンジローマ周囲をレーザーで固めておいて、周辺にウイルスが拡散しないようにしてから尖圭コンジローマ本体を周辺から切り崩していきます。その際、基底細胞層のウイルスが残らないように十分深く焼灼しますから、レーザーの長所である「傷をきれいにする」時のような浅い焼灼はしません。
外科的切除の実際
リング鉗子(かんし)という特殊な器具を使って腫瘍を取り除きます。尖圭コンジローマの根元に局所麻酔薬を注射してイボを浮かせて基底細胞層も含めて切除して、周囲を電気メスで焼灼することで再発率を減らすことが出来ます。腫瘍が少ない場合には1−2週間できれいに回復して傷痕もほとんど残らないことが多くて治療効果がすぐに出る最 も手軽で効果的な方法です。欠点というほどではありませんが出血しますので電気メスで十分止血しなければなりません。著者は小さな腫瘍なら外来で発見した らその場で切除しています。下図は当院の外来診察ベットの様子です。診察ベットのすぐ近くに電気メスと手術器具の入った滅菌器があり、いつでも手術ができる体制が整っています。
図 外科的切除
その他の治療方法に対する著者のコメント
実際の治療には上記の冷凍凝固、電気メスまたはレーザー、鉗子(カンシ)を取り混ぜて使っています。ブレオマイシンや5FUといった抗がん剤を塗る方法も ありますが、健康保険の適応がなく、治療によってDNAが傷つき将来ガン化する恐れもあることから日本性感染症学会は推奨していません。ポドフィリンはヨーロッパでは使われていて、日本では皮膚科専門医のなかで好んで使う先生もいますが、毒ガスの原料を皮膚に使いたくないので著者は使っていません。
海外では「緑茶抽出物エキス」という薬が実用化されて、著者も注目していますが、まだ日本では手に入れることが出来ません。
尖圭コンジローマの雑学
● 尖圭コンジローマの男女差
全国的な統計では尖圭コンジローマの男女差はありませんが、泌尿器科では5:1で男性が多く来院されます。泌尿器科で男性患者が多い理由は、第一に男性の性器は表に出ているので本人が気がつきやすいけれども、女性の性器は表面にあれば 気づくが、膣内の病変は検査を受けない限り見つからないこと。第二に女性では膣粘膜の入れ代わりが早いために発病しても自然に消滅することがあるためで す。とはいえ女性には少ないのかというと、潜在的に尖圭コンジローマの原因となるヒトパピローマウィルスを持っている人が、20代女性の40%にも上ると いう研究もあり、今後の広がる可能性があって油断できません。
● コンドーム使用率低下と尖圭コンジローマ
尖圭コンジローマローマに限らず性病が全体的に増加している原因とのひとつしてコンドーム使用率の低下があります。コンドームの出荷量は過去10年で 40%も減少しているとのことです。これに反比例するように尖圭コンジローマやそのほかの性病も増えているのですが、問題は数だけでなくて、病気自体が治 しづらくなって、質が悪化しているのです。尖圭コンジローマを例にとると、以前は1−2個程度で数が少なくて再発もしにくかったものが多かったのですが、 最近は数が多くて再発しやすいものが増えてきています。場所も亀頭部や外尿道口といった場所が増えています。これらの場所はコンドームさえしていれば予防 できたはずです。
● パピローマウィルス
尖圭コンジローマはヒトパピローマウィルス(HPV)が粘膜や皮膚の細胞を以上に増殖させて起こる良性腫瘍です。ですから腫瘍をとっても周辺にウィルス が残っていればまた再発してしまいます。パピローマウィルスには100種類以上のタイプがあり、これからも発見されてタイプが増えるでしょう。パピローマウィル スは尖圭コンジローマだけでなく、皮膚のいぼや皮膚がんからも見つかっていて、皮膚粘膜の良性または悪性腫瘍の主な原因と考えられています。尖圭コンジ ローマを起こすタイプは将来がんになる危険の少ない(ほとんどない)1,2,6,11型(低リスクタイプ)とがんになる危険がある16,18,31型(高 リスクタイプ)に分けられます。ただし、高リスクタイプのパピローマウィルスに感染していたからといって、すべてが尖圭コンジローマに発病するわけではな く、さらにがんになるケースもそのうちの一部であることも付け加えておきます。
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