性器ヘルペスの症状と特徴 ウイルス感染症としての対策

投稿日:2010年6月8日|カテゴリ:性器ヘルペス

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2014年4月13日更新

この記事は著者が2007年から2014年にかけて担当した日本性感染症学会総会、西日本泌尿器科学会総会、日本臨床衛生検査技師会、東京都薬剤師会ほかにおける学術講演や教育セミナーの内容から抜粋して一般の方向けにわかりやすく書き直したものです。医療機関様で日常診療にお役立ていただけると幸いです。なお、著者の許可なく書籍、インターネット、論文ほかに記事や画像の一部または全部を転載、引用、公開を禁止いたします。


性器ヘルペス症状の特徴

性器ヘルペスは一度感染してしまうとウィルスが体内に潜んで、体の抵抗力が落ちたときに再発する、いやな病気です。その性格上、年齢が高くなるほど有病率が高くなる、ちょっと変わった性病です。感染するウィルスのタイプによって1型と2型があります。以前は「口唇ヘルペスは1型、性器ヘルペスは2型」と いわれてきましたが、オラルセックスによって1型と2型の境目が薄れつつあり、ウイルスタイプにこだわるあまりに診断上混乱をきたしています。最近ウイルス感染症としての対策をとることで、「コントロールできる病気」になり、基本的な対策さえとれれば昔のようにむやみに恐れる必要はなくなりました。

再発を繰り返すことでメンタルダメージに発展

ヘルペスウィルスの感染により性器に水泡(水ぶくれ)、腫れ、痛み、かゆみなどの症状が起こります。初めての感染のときに症状が強く出て、全身倦怠感 やリンパ節の腫れを起こすひともいます。発病後たいてい1-2週間で症状は治まりますが、その間はとてもつらい日々が続きます。よく効く薬がありますから 早めに病院にいきましょう。

性器ヘルペスは一度かかると何度も再発することがある病気です。年に1-2回のこともあれば 毎月のように再発する方もいらっしゃいます。再発を繰り返すうちに症状が軽くなることがほとんどですが、症状が軽いときにかえって自分で気づかないうちに パートナーに移してしまったり、性器を触った手で目をこすって角膜炎を起こすこともありますから、十分に注意したい病気です。

再発や他人に移すことを予防するために、医者はよかれと思って「疲れすぎないように気をつけてください」「お酒の飲み過ぎはいけません」「早寝早起きをして規則正しい生活をしましょう」「パートナーへの感染が心配ならコンドームをしましょう」「再発させないためにはよく運動をして強い体を作りましょう」。。。。。等々、かなり無理な注文をしてきました。まじめな患者様は医者のアドバイス通りにしようと努力すると、日常生活をかなりな部分制限しなければなりません。あまり神経質になると、出世をあきらめたり、恋愛がうまく続かなくなったり、子づくりが出来なくなったりするケースも出てきてしまい、積極性が欠けてしまうことがあります。海外では「性器ヘルペスの再発を気にするあまり出世が遅れた」とさえいわれています。

怖がらないで。積極的にコントロールできる病気

上記のような理由で、以前は「治らない病気」「パートナーに迷惑をかける病気」というイメージがありました。実際にほかのインターネットのサイトには、いまでも「とても怖い病気である」というような印象を受ける記事を多く見かけます。しかし、最近の治療技術の進歩で「積極的にコントロール」することが可能な病気になったので、以前のように怖がる必要はありません。再発予防を心配するあまりに、メンタルダメージに発展してしまい、ノイローゼ気味になってしまった患者様も多く見かけます。アメリカの性器ヘルペスの患者団体が実施したインターネットアンケートによると、患者様が医療関係者に対する不満の最も多くが、このような無責任なアドバイスであることがわかりました。(左図)そのような指摘を受けて最近ではメンタルダメージにも配慮した生活指導にかわりつつあります。その秘密は次に述べる「ウイルス感染症としての対策」にあります。

性器ヘルペス 新宿さくらクリニック

図 医原性メンタルダメージ

 

皮膚病ではなく神経のウイルス感染症としての対策を

性器ヘルペスは、皮膚病というよりは神経のウイルス感染症として対応するべきです。そのためには塗り薬は皮膚症状を緩和するだけで、神経のウイルスを治療するためには抗ウイルス薬を内服する必要があります。(下図は東京慈恵会医科大学皮膚科教授 本田まり子先生のお作りになった図に一部追加してあります。)

性器ヘルペス 

図 神経のウイルス感染症



ウイルスか体内に侵入して神経の奥深くに侵入して、脊髄近くの神経節に居着いてしまいます。普段ウイルスは休眠状態ですが、風邪を引いたり、疲れたり、寝不足したり、女性では生理の前後の体調不良によって再活性化して皮膚表面に出てきます。

そのときの自覚症状は皮膚の裏側からちくちくとは利で刺されたような痛み〜かゆみから始まって、性器あたりの皮膚が赤く腫れて、典型的には水泡、潰瘍、皮膚びらんへと発展しますが、再発の場合、こうした目に見える皮膚症状を見せないこともあり、再発に気づかないこともたびたびあります。しかし、そのような場合でもウイルスが体内に排泄されていることがあり、「ウイルスの無症候性排泄」といいます。こういうときに性行為でパートナーに移してしまう危険があります。

 

初めて性器ヘルペスに感染したときの症状は重い傾向にあり、ほとんどの医者が飲み薬を出すようですが、それでも抗ウイルス薬ではなくて細菌を殺す抗生物質だったりすることもあります。塗り薬で抗ウイルス薬を出されても神経内のウイルスを治療することは出来ません。さらに再発症状は症状が軽くなる傾向があるのでほとんどの医者が塗り薬しか出してくれません。しかし、症状が軽くても再発を繰り返す患者様にとっては精神的なストレスを感じていることがあります。症状の重さに関わらず、再発時でも積極的に抗ウイルス薬の内服をすることが再発や無症候性排泄等を予防する基本です。

 

初感染型性器ヘルペス 新宿さくらクリニック

図 性器ヘルペス初感染症状

 

再発型性器ヘルペス 新宿さくらクリニック

図 再発型性器ヘルペス症状

 

著者は初感染時はもちろん、再発時においても積極的に抗ウイルス薬の内服を行い、再発の原因となる体の奥深くの病巣を治療するように心がけています。また、1996年以降日本でも性器ヘルペス再発抑制療法が保険で出来るようになったため、自覚症状が軽くても、再発に悩んでいらっしゃる患者様にはこの治療方法をお勧めしています。

血液検査は無駄。無症状パートナーの検査と治療は必ずしも必要ではない

当院では原則的に血液抗体や水泡の液からDNAでヘルペスの有無を調べることはいたしません。典型的な症状が出ているときであれば専門医が一目見るだけで診断がついてしまいますから、ウィルスのDNAを調べるまでもありません。血液中の抗体を調べる方法には1型と2型を区別するCF法(補体結合反応)がありますが、感度が低く明らかに性器ヘルペスの既往歴がある人でも陰性になることもあれば、逆に水ぼうそうの既往歴がある人にも陽性になることがあって
初感染と再感染の区別がつかないこと厳密な意味で1型2型の区別もできません。そのような 理由で、無症状のひとの検査には臨床的な価値が疑問視されています。
ウィルスのDNAを調べるPCR法もできるようになりましたが、これは水ぶくれの内容 物や髄液を取って調べなくてはならず、髄膜炎のような重い病気のときにしか行いません。症状がないには丁寧な問診をすることによりほとんどの場合ヘルペスかどうか、治療するべきかどうかの判断がつきます。反対に検査の精度はそれほど高くないので、検査を当てにしていてはヘルペスを見逃す危険が大きいですし、精度が悪い検査をしても誤解の原因を作ってしまいます。


インターネット上には「ヘルペスの診断ができる」という記事が多数見られますが、著者の知る限りではごく一部の限られた研究施設以外ではそのような検査はできないはずです。ですから、「パートナーが性器ヘルペスにかかったので自分も検査してほしい」とのご要望には、大変申し訳ございませんがお受けしていません。

著者はクラミジアや淋病などの細菌性性感染症では、「パートナーと同時治療をしてください!」といっていますけれども、ヘルペスや尖圭コンジローマのようなウイルス感染症に関してはこの原則が当てはまりません。なぜならば感染しても発病する人はごくわずかで、しかも症状がない人に検査をしても診断をつけることが出来ませんから、症状が出るまでは診断も治療も出来ないからです。ヒトは一生のうちにいろいろなウイルスに感染しますが、ほとんど発病することなく過ごしています。ヘルペスウイルスもそのようなウイルスの一つです。もしかするとパートナーから移されたとしたら、カップルでウイルスを共有するもの同士で感染予防をすることは意味がありません。パートナーが未感染で不幸にして発病してしまったとしても、世界中の人間の半数以上が感染しているウイルスですから、あなたが世界代表で責任を感じる必要はありません。

そうはいっても、パートナーのことが心配ですよね。患者様のほとんどが自分のことよりもパートナーにことを心配されていて、優しいひとが多いことに感心します。そんな気持ちをお手伝いするために有効な治療方法がありますから、次の「性器ヘルペス再発抑制療法について」をぜひお読みください。

 

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