抗ウイルス薬の作用機序と耐性化予防
性病事典>性器ヘルペス>耐性ウイルスを作らないために(工事中)
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この記事は2014年10月5日第5回東海STI研究会に於ける特別講演の内容から抜粋して出来るだけ平易にわかりやすく書き直したものですが、それでもまだ難しい内容ですので、最初から最後まで熟読してください。専門医のみならず医療機関様で日常診療にお役立ていただけると幸いです。なお、著者の許可なく書籍、インターネット、論文ほかに記事や画像の一部または全部を転載、引用、公開を禁止いたします。
① 待ち伏せ療法の禁止
性器ヘルペスは再発を繰り返すので、いちいち医者に行くのは面倒だから、出された薬を、自覚症状が消えたら次のために取っといて、全長症状があるときに2〜3回のめば発病せずにすむ、と思っている方が多いと思います。しかしこのような「待ち伏せ療法」は、皮膚症状だけを緩和するので、神経の奥深くで起こっているウイルスの再活性化やウイルス増殖を抑制していませんので、次の再発を起こしやすくなったり、パートナーにウイルスを移してしまったりしやすくしてしまいます。さらに中途半端に薬を使うと、耐性ウイルスを作ってしまう危険もあって、絶対にしてはいけません。
耐性ウイルスを作らないためには、症状があるたびに適切に抗ウイルス薬を飲みきることで、神経細胞内のウイルスの増殖や活性を治療機会があるたびに抑制していくことが重要です。その反対に、出された薬を余らせておいて自覚症状が起こりそうなときに数回薬を飲んで症状をごまかしてしまう「待ち伏せ療法」は、神経細胞内で十分な効果がないばかりではなく、耐性ウイルスを作りやすくすり危険がありますから、特別な理由がない限り「良心のある医師はやってはいけない」と思います。また、再発抑制療法は、ウイルスの再活性化を押さえるので、耐性化自体を起こしにくくします。ですから、再発抑制療法は治療期間中の飲み忘れをできるだけ少なくして、できるだけ長く続けることが望ましいと思います。
② ヘルペスウイルスの構造とライフサイクル
(図1)HSVの構造
ヘルペスウイルス(HSV)は図1のような構造をしていて、外側からエンベロープ、カプシドという2重の殻に囲まれてDNAが存在します。一番外側のエンベロープは、もともと人間の神経節細胞の皮膜の一部からで来ていますので、人間の神経節細胞への親和性が高く、神経細胞にに寄生しやすくなっています。エンベロープの表面に何種類もの糖タンパクが突き出していて、ウイルスの宿主細胞への感染や増殖に機能しています。血中抗体はこの糖タンパクの違いを見ていますから、ウイルスそのものを見ていないことになるので、検査結果で間違えが起こりやすい理由になっています。
① ウイルスが神経説細胞の皮膜に融合して、
②細胞内にカプシドを送り込み、
③細胞内でカプシドが分解されてウイルス遺伝子が裸の状態になります。
④ ウイルス遺伝子は環状構造になり休眠状態になります。この状態では再発が起こりませんし、ウイルスの増殖や耐性かも起こりません。
⑤ 疲れたり、寝不足や生理前後等、あるいは性的刺激などによって休眠中のウイルスが再活性化をして、ウイルス増殖が始まります。再活性化にはDNA構造を変えるDNAポリメラーゼという酵素が大きな関与をしています。
⑥〜⑦ DNAのコピーが作られて増殖し、カプシドを再構成して、寄生している神経節細胞の細胞膜をエンベロープとして身に纏って寄生細胞の外に放出されます。その後ウイルスは神経を伝って皮膚表面に達して発病します。
バルトレックスとファムビルといった抗ウイルス薬は感染細胞内に存在するチミジンキナーゼ(TK)という酵素の働きで3リン酸化されて抗ウイルス活性を表します。3リン酸化するとバラシクロビル(バルトレックス)はアシクロビルに変化し、ファムシクロビル(ファムビル)はペンシクロビルになります。
現在臨床的に使われている抗ウイルス薬は①DNA豪勢阻害作用 と、②DNAポリメラーゼ阻害作用 の二つの作用点があります。
① DNA合成阻害作用: バラシクロビル(VCV)やファムシクロビル(FCV)といった抗ウイルス薬は、チミジンキナーゼという酵素によって3リン酸化されてアシクロビル(ACV)やペンシクロビル(PCV)と言った活性体になります。この3リン酸化した部分が、DNAを構成する核酸のうちのデオキシグアノシン3リン酸(dGTP)と構造がよくにているため、DNAがコピーを作るときにdGTPの代わりにACVやPCVが置き換わる(置換)ので、正常なDNAが複製できなくなります。この作用はどちらかと言うとPCVの方がACVよりも得意としています。
② DNAポリメラーゼ阻害作用: 抗ウイルス薬は、DNAの再活性化やコピーに関与しているDNAポリメラーゼを直接阻害してDNA増殖を阻害します。DNAポリメラーゼはDNA増殖期だけではなく、休眠状態からウイルスが再活性化するときにも関与していますから、DNAポリメラーゼを押さえることは、ウイルスの再活性化を押さえる(=再発抑制効果)が得られるのです。ACVはPCVに比べてこの作用がつよいため、ACVを改良型して感染細胞内に高濃度移行しやすいようにしたバラシクロビルが、再発抑制療法に適しているのはそのような理由からです。
① チミジンキナーゼ欠損: 抗ウイルス薬を3リン酸化(活性化)させるチミジンキナーゼを作らないことでウイルスが耐性化します。しかし、チミジンキナーゼはウイルス由来なものだけではなく、宿主細胞由来のものもあること、チミジン自体がウイルス構造の1%を占めるアミノ酸であるため、チミジンキナーゼが不備になるとウイルス構造自体が不完全になるため、HSV1では、チミジンキナーゼを欠損する突然変異株においては、感染性や病原性がなくなってしまうことがある(自滅型変異)ので、いまのところ臨床的に問題になる耐性株は現れていません。
② DNAポリメラーゼの突然変異: DNAの再活性化やコピーに関与するDNAポリメラーゼという酵素が突然変異して、抗ウイルス薬が効かなくなります。この場合、再発抑制療法が無効になる可能性があるので、とても危険な耐性ウイルスが出来てしまう可能性があります。幸いなことに今現在はそのような耐性ウイルスはほとんど発見されていませんが、中途半端な薬の使い方をしているとこのような耐性ウイルスを作ってしまう危険が高まります。DNA再活性化を押さえる再発抑制療法は突然変異の原因となるウイルス増殖自体を減らすので、ウイルス耐性化も起こしにくくしていますので、長期間抗ウイルス薬を飲み続けた方が安全です。途中でやめたり、飲んだり飲まなかったりしないことが、耐性ウイルスを作らないことにつながります。