性病に健康保険は 使えるのか

投稿日:2010年6月8日|カテゴリ:基礎知識

●性病に健康保険は 使えるのか
 答えは「はい。使えます」です。著者は積極的に健康保険を使っていただきたいと願っています。健康保険を使わないと医療費が非常に高くなってしまいます。特に若い方は医療費を気にして病院に来ることさえしないケースも目立ちます。
確かに性病の治療には精密な検査方法や一流の治療薬を使わなければならないことが多いので、かぜなどの診療に比べたら医療費は高めになります。しかし治療のタイミングを逃すと、不妊症など、一生後悔する結果にもなりかねませんから、早い時期に適切な治療を受けるためにも健康保険を使って十分な検査治療をお受けになっていただきたいと願っています。

 
 健康保険の理念は国民が健康な生活ができるように、国と国民がみんなでお金を出し合って病気になってしまったひとの支援をしようというところにありま す。ですから保険料の納付は国民の義務です。そのかわり国は国民が安心して(安い費用で)医療が受けられるようにする義務があります。このところ政府は医 療費が高騰していて、「国家財政を圧迫している」と説明していますが、本当に足りないのは年金資金です。日本の国民医療費は平成13年以降減っています し、日本の医療費(対GDP比)はOECD加盟国29か国中18位と下位ににあります。国民一人当たりの医療費は最も高いアメリカの2分の1程度で、世界 最高水準の長寿国家を実現しています。ですから日本の健康保険制度は世界中のどこの国よりも成功した制度だと、著者は誇りに思っています。

●無症状でも健康保険は使えるのか
 健康保険は病気のひとのためのものですから、症状がないひとの検査は、原則的に健康保険が使えません。しかし性病感染者の約半分は自覚症状がないのです から、危険な性行為があったり、パートナーが性病にかかったりしていれば感染している疑いが濃厚ですので、健康保険を使っていいと著者は考えています。
 
現在、政府は医療制度改革として健康保険の適応範囲を再検討しています。風邪などの軽い病気は健康保険の適応からはずすことも検討されています。近い将来性病に対して健康保険が使えなくなってしまう可能性はありますが、今は健康保険が使えます。
 ほとんどの性病は命にかかわる重い病気ではありませんが、不妊症になったり、お産のときに子供に移してしまったりして、子孫に影響を及ぼす重大な病気ですから、国民とその子孫を守るためにも健康保険を使って安心して治療が受けられることが必要です。

健康保険扱いができない場合

 性病の検査治療には原則的に健康保険が使えますが、いくつかの例外があります。
健康保険が使えないのは主に以下のような場合です。
①保険証原本を忘れた場合、資格や有効期限が切れている場合
 保 険証のコピーは、簡単に偽造ができます。外国の保険証はICカードになっていたり、顔写真が入っていたりして簡単には偽造できない仕組みになっています が、日本の保険証はもってこられた方を信用することを建前にしているため、個人認証はほとんどできません。ですから同じ医療機関にご家族がずっと通ってい らっしゃる場合とか、顔見知りの方でない限り、初めての医療機関にコピーを持っていっても信用されなくても不思議ではありません。健康保険証はコピーではなくて必ず原本をお持ちください。

 
健 康保険を使うと医療費の3割程度を医療機関の窓口で自己負担していただきます。後の7割は医療機関から支払い基金という団体に請求書を提出して適正な医療 かどうかの審査の後に2ヵ月後に支払われます。この期間は医療機関が国に代わって医療費の約7割をを立て替えています。健康保険証の期限が切れていたり、 退職などによって保険資格を失っていた場合は立て替えた医療費が支払われません。ご本人に悪気はないことがほとんどですので、医療機関は大変困ってしまいます。健康保険証の資格切れには十分ご注意をお願いいたします。

②結婚時などの健康診断
 パートナーとともにまったく健康で、性病にかかる疑いもない方でも時々性病検査を希望される方がいらっしゃいます。このような場合は、入学・就職時の健康診断や人間ドックと同じ考え方ですので、健康保険は適用されません。保健所で性病検査を無料で行っている自治体もありますので、そのような行政サービスをご利用になられるといいでしょう。

③健康保険の制約がある場合
 医師が必要と考えた検査であっても健康保険の制限によって保険適用ができない場合もあります。たとえば「尿道炎」でクラミジアと一般細菌の検査を行った 場合、淋菌を検出する遺伝子検査は通常保険では認められません。東京都では遺伝子検査よりもずっと値段の安い嫌気性培養検査すらも認められません。原因不 明の尿道炎の多くを占めていると考えられているマイコプラズマ・ジェニタリウムの検査は健康保険の適応がありません。尖圭コンジローマの原因となるヒトパ ピローマウィルス(HPV)は、将来がんになる危険を持ったタイプと、そうでないタイプがあり、そのタイプ別分類の検査にも健康保険が通りません。

④妊娠やアレルギー体質などのやむをえない事情がないのに治療を拒否される場合

 健康保険の理念は病気を発見して治すことにありますから、原則的に治療を受けていただくことを前提に検査を行います。もちろん必要のない治療はいたしませんが、
妊娠やアレルギー体質などのやむ終えない事情がなくて必要な治療を拒否された場合には保険適応が難しくなる場合もございますのでご理解をお願いいたします。
 多くの患者様はこのようなことはありませんが、かつて性風俗に勤める方が症状があると偽って定期的な検査目的で健康保険を使用されていた事実があり、以降、当院では自発的に上記のような基準を設けております。

  読者の皆様には限りある少ない医療費のなかで、適正な健康保険の運用をしている全国の保険医・国保連合会・社会保険庁・等関係者各位の皆様の代弁のため、 保険制度の現状を書きました。著者は現行の制度を批判するつもりはまったくありません。著者の文筆の至らなさで、もしもお目障りな点がありましたら、深く お詫び申し上げます。